2012年5月16日水曜日

広がる仏像人気

今、仏像が熱い。3月31日から6月7日まで東京・上野の東京国立博物館平成館で開催されていた「国宝 阿修羅展」(朝日新聞社ほか主催)の入場者は90万人を超え、阿修羅像をはじめとする仏像を扱った雑誌や書籍の完売・増刷も相次いでいる。今、なぜ仏像なのか。

「(仏像好きの)層が広がっている」と語るのは「一個人」(ベストセラーズ)の編集長、高橋伸幸さん。「一個人」は公称15万部で、「永久保存版特集・仏像入門」と題して、その歴史や鑑賞の基本などを掲載した6月号は創刊後、初の増刷となり18万部を超えた。これまで仏像好きと言えば中高年層が中心だったが「アンケートはがきには、17歳の女子高校生からのものもあった。モデルのはなさんのエッセイ『ちいさいぶつぞう おおきいぶつぞう』(幻冬舎文庫、2006年)に代表されるように、仏像人気は若年層にも確実に浸透しているようだ」と話す。阿修羅像に魅せられた女性たちが一部で「アシュラー」と呼ばれ、仏像好きの女性が「仏像ガール」を名乗るなど、これまでの仏像好きのイメージとは明らかに異なる人々が目立つのも、今回の人気の特徴だ。

「仏像鑑賞がポピュラーな趣味になった」と話すのは「奈良興福寺 阿修羅」などの「魅惑の仏像」シリーズを刊行する毎日新聞社出版局の永上敬さん。「魅惑の仏像」シリーズは01年の刊行だが、昨今の仏像人気を受けて増刷が続いている。「みんな実は仏像が好きだったのかもしれない。でも非常に専門的な世界なので、なかなか好きだと口に出せなかった」。ところが、1993年から刊行されている作家のみうらじゅんさんといとうせいこうさんが全国各地の仏像を独自の観点から鑑賞する「見仏記」(角川文庫)シリーズ以降、「誰でもキャラクターとして仏像を楽しめるようになり、趣味として認知され始めたのではないか」と分析する。

普段は見られないところまで 展示会の工夫

展示会の工夫も見逃せない。昨年11月1日から今年5月10日まで大阪・東京・福岡で開催された「国宝 三井寺展」(毎日新聞社ほか主催)は約21万人の入場者でにぎわった。大阪会場となった大阪市立美術館の研究副主幹・石川知彦さんは「これまで厨子(ずし)の中に(仏像を)安置したままの展示が主だったが、近年は寺院のご厚意で、厨子から(仏像を)お出ししてご覧いただけるようになった。結果、背面や側面にも参加者が回れるように主催者側で工夫することが多くなった」と語る。これが「普段は見られないところまで見られる」という付加価値を生み出し、来場者が増える傾向にあるという。「三井寺展」では同様の工夫を施した結果「(仏像の)全身が見られる」と評判で、「阿修羅展」でも、360度どこからでも阿修羅像を鑑賞できるように工夫されていた。

ここ数年の間に開催された「仏像 一木にこめられた祈り」(読売新聞社ほか主催)「国宝 薬師寺展」(同)「三井寺展」「阿修羅展」を挙げて「国宝級の仏像の数々が多くの人の目に触れたことが、結果として仏像を人々に再認識させたのではないか」と、石川さんは推測する。

当分は続きそうな仏像人気。「ぜひ仏像に親しんでほしい」とした上で、石川さんは鑑賞の心構えとして「頭の片隅に、仏像が信仰の対象であるということを置いてほしい」と話した。