2014年7月22日火曜日

先取りをしていく政策を実現する

三五年、四五年の二回、私はコンピューター政策に携わった。コンピューター産業育成のための「日本電子計算機株式会社」の設立や、初代の電子政策課長としてソフトウエアを開発するための「情報処理振興協会」の設立などを担当した。今でこそ華やかなコンピューターも、当時は電子計算機といわれた時代で、その電子計算機に国が支援をすることには多くの問題があった。しかし、コンピューターはこれからの情報化社会になくてはならないものであるということをよく理解してもらい、国の助成措置が実現した。

工業用水道、産業立地、コンピューターといった新しい分野の仕事をすすめるなかで、いくつかのことを体得した。それは新しい事業を始めるときに守るべき大切なことであった。第一番目は、いくら重要だと唱えても相手には理解されないということ。説明の方法が大事だということだ。大蔵省の予算当局者、国会議員、また一般の人によく理解してもらう。この説明の仕方を工夫せよということであった。私は県庁の職員には「三つのPが大事だ」といつも言っている。物事を成功させるためには、rlanning=計画とPerformance =実行が大切であるが、その中間のPresentation=提示・説明の仕方が大事なのだ。

第二番目は、その重要性をわかってもらうためには、繰り返し繰り返し説明していくということである。私は「行政はPRである」とよく言う。PRと宣伝とは違う。PRとはPublicRelations。つまり一般住民との関係をよくするための広報なのである。だから、行政の考えることをわかりやすく、繰り返して説明し、理解を得る。この姿勢、が必要である。

三番目は、先取りをしていく政策を実現していくためには、自分自身が積極的に現場に出かけ、現地の人の話を聞きながらやっていくということである。公害課長のときには、実際に公害防止の担当技術の人だちから話を聞いた。またコンピューターの勉強をするときには、企業で真剣にやっている研究者たちに直接話をうかがって、どこを国が援助すればよいかを考えた。自分の頭で考え、現場に乗り込んで現場の声を聞くことが大切なのだ。

2014年7月8日火曜日

スーパーキャッシュ共同実験

電子カードが現金をなんら裏付けに持っていなければ、貨幣としての機能を果たせるはずもない。それは単なる電子信号ないし電子情報といったものに過ぎなくなってしまう。言い換えれば、電子マネーというのは既存の貨幣(頂金)すなわち価値を前提として、それを電子情報としてICカードまたはインターネット上に取り込むことによって初めて生み出されるものである。

エレクトロニクス技術やコンピュータネットワークがいかに進歩発達したといっても、その上で移転される「価値」そのものを、魔法のように無から有を生み出すが如く、創造することは所詮できない相談である。しかし、銀行を介在させずに取引の当事者問で直接資金を移動できるうえに、ネットワークを通じて海外との取引・決済も可能だから、マネーサプライや課税など国の金融・財政政策等に与える影響は大きく、国を単位とした通貨体制を揺るがすという問題が生じている。現実に電子マネーに代表される決済の電子化というのは、どのような形で進められているのであろうか。

東京・渋谷で一九九八年七月から実験が開始されたのが「渋谷スマートカード」だ。ここではビザーインターナショナルの「ビザキャッシュ」という電子マネーカードで買い物、かできる。カードに搭載されたICチップに、あらかじめお金の価値データを入力しておき、買物の際に金額分をそこから引き落とすことによって支払いをすませる仕組みで、いわば汎用型のプリペイドカードである。

これには「使い切り型」と「再補充型」の二つのタイプがある。使い切り型はあらかじめ決められた金額の貨幣価値が充填されたもので、現状のプリペイドカードと同様に、使い切ってしまうとそのカードの価値はなくなる。再補充型の方は、あらかじめ貨幣価値は入っていないため、専用の端末やATMで充填する。充填しか価値を使い切ってしまっても、繰り返し補充して使うことができる。

その名も「スーパーキャッシュ共同実験」と銘打って一九九九年四月から東京・新宿で始まったのがNTTの開発した電子マネーの実験だ。専用端末を使って銀行の口座からカード内に預金を移し、買物をした分だけ店の端末に支払う。新宿駅周辺の参加店舗約一千店には専用の端末が置かれている。パソコンに端末を接続してインターネットを通じてやりとりすることもできる。この実験には都銀、地銀、第二地銀、長信銀、信託合わせて二十四行が参加しており、電子マネーは各銀行がそれぞれ発行する形になっているが、各行が発行した電子マネーを互いに流通使用することもできる仕組みである。