2015年12月12日土曜日

中断された干拓工事

建設省の陰に隠れがちだが、農水省も公共事業予算の二割を握り、省庁のなかでは二番目に大きな実施官庁である。同省も税金の使い方にムダがあると批判されて久しい。そうした批判が的を射ていることを改めて印象づけたのは、一九九六年に再開問題が浮上した中海干拓事業である。

これは、島根県と鳥取県にまたがる中海の五ヵ所を干拓して合計二千五百四十一ヘクタールの水田を中心とした農地をつくるとともに、日本海につながる中海に防潮水門を設けて締め切り、中海とそれに連なる島根県の宍道湖を淡水化して農業用水を確保するという農水省の直轄工事である。

工事は一九六三年に始まったが、一九八八年に中断に追い込まれた。自民党政府は一九七〇年からコメ余りに対処するため減反政策を始めた。巨費を投じて、なぜいまさら水田なのかという疑問が起きてきた。中海と宍道湖は海水と淡水がまじる汽水湖で、野鳥や魚類の宝庫であり、特産のヤマトシジミでも知られる。両湖を淡水化すれば、自然の宝庫は壊滅的な打撃をうける。河口堰で締め切られた茨城県の霞ヶ浦が緑のアオコで覆われたように、日本でも有数の美しい景観を誇る湖が失われる。島根県からはしまった自然保護運動の輪は全国に広がり、工事に反対する署名は三十二万を超えた。

運動は成功し、水門などは完成していたが淡水化は見送られ、干拓地も最大の本庄工区二千六百八十九ヘクタール)をのぞいて完工していたが、浚渫船やブルドーザーは引き揚げた。本庄工区も、周囲に堤防の仕切りがほぼ完成し、あとは水を抜けば陸地にできそうな状態になっている。ぎりぎりのところで、ストップがかけられたのである。