2015年11月13日金曜日

山下公園地区の整備

その頃、アーバンデザインーチームは、この山下公園前の海岸通り地区で行なわれる、さまざまの開発行為や建築行為について、どのような方針でのぞむかの骨子をまとめた。考え方は現実性もあり、明快なものでなければならない。そこで、港の眺望がすばらしいこの地区を、特定個人の独占を避けて、できるだけ不特定の者でも出入りできる公共的な性格をもったものにすること。個人に占有されるマンションはやめる。海岸通りの歩道も狭いので、これに面する建築物は、前面敷地から三メートルを後退させ、歩道と同一仕上げにして、歩道幅員を確保すること。

歩行者と車の動線を極力分離し、山下公園側の歩道は車の出入りによって分断されないように、駐車場や車の乗りつけは、裏側や側面で行なう。歩行者道に添って、できるだけ広場を確保させ、この広場を、他の建物の広場とも互いに呼応させる。このような原則を立てた。指導内容は、ゾーンごとに異なるが、表のような項目である。さきほど述べてきたような、この地区についてのさまざまな手段は、原則をたてる以前から行なってきたが、ここへきて、もうすこし具体的な方針を明確にうちだした。

神奈川県が、この地区に三〇〇〇人近い大ホールを含む県民ホールを建設したいという申入れがあったからである。たしかにここは整備さえすれば横浜らしさ、ミナトらしさからみて第一等地であった。それは、さきほどの市の所有地と同じブロックで、その大部分は県有地である。そこで市の土地も買収し、一ブロックまとめて建設をしたいという申入れであった。市としても、独自の単独利用案を考えてはいたが、この山下公園地区の整備のために、県に協力することにした。

県知事から市長への申入れがあったさい、「土地売却には協力するが、この地区を全体として横浜らしい個性ある地域として整備したいので、市のアーバンデザインなどの指導方針に従ってほしい」という申入れを行なった。そこでさきほどのような原則を、県側に提示した。同じ頃、県民ホールの隣りのブロご所が中心になって、横浜産業貿易センタービルを建設する計画が進められていた。

このビルにも同じ申入れを行ない、さらに、ほぼ同時に建つこの二つのビルの、それぞれ向きあった角地に、広場をとることを提案した。土一升金一升の高価な土地で、前面を三メートルも歩道敷として削られたうえに、なお前面に合わせて三○○○平方メートルの広い広場をとることなどは、できないことだとの抵抗もあった。これも環境設計制度という、まえから手を打っていた施策がきいたことと、ねばり強い説得とで解決していった。