2015年9月12日土曜日

破傷風の予防接種

破傷風の予防接種は、人問の頭脳がトキソイドを考え出したことによって可能となった、純粋な人工的免疫現象ということになる。また予防接種を受けたことのないヒトが破傷風にかかった場合、時にはトキソイドを別の部位に注射することがある。これは患者が、抗体を自分で作ることを期待するものではない。トキソイドを注射しても、実際に抗体が作られ出すのはかなりあとのことであるからとても間に合わない。

これは毒素とトキソイドの形が似ているために、トキソイドを先回りさせることによって、毒素が神経細胞に取り付くことを邪魔させるためである。この場合、中和抗体とトキソイドを混合して注射すると同士討ちになってしまうから、両者は別の部位に注射する。ボツリヌス中毒も、理論的には予防接種で予防できる。しかし実際には、このような予防接種は行なわれない。なぜなら、一般のヒトがボツリヌス中毒にかかる確率が著しく低いからである。

創傷部位における致死的病変は感染症というより、結果的にその動物が死んだ後、改めて栄養源にするための手段と考えられる。また細菌学的には異なる菌種であるが、炭疸菌も破傷風菌やボツリヌス菌のような、いわば狩人のような細菌である。この細菌は通常、芽胞型として土壌中に存在する。主に草食動物が草を食べる際、ロの周りに生じた小さな傷口から侵入して全身で増殖し、動物を殺す。

殺した後、おそらくこの屍体を利用して、改めて本格的に増殖するところも同じである。そして栄養を消費し尽くすと、芽胞になって土壌中に潜在する。炭疸菌の芽胞によって汚染された土壌は、長期間危険とされている。なぜならこの菌の芽胞が、乾燥などの環境の悪条件に耐える力が非常に強いからである。このように芽胞は、環境条件が悪化した場合、通常の代謝活動をいっさい停止して乾燥などに抵抗する。前述の破傷風菌の仲間と炭疸菌が、ともに芽胞型になる能力をもっているのは偶然ではない。

彼らの生育環境である土壌は自然条件に左右され、細菌の生存や増殖にとって著しく不安定だからである。腐生菌と反対に寄生菌の場合には、宿主という環境は、この宿主が生存している限り、条件の変化は少ない。このことからも、寄生菌にとって宿主になる生物を殺すことは自滅行為であると考えられる。