2015年7月14日火曜日

基礎年金による再編成

年金の算定は、この年代がもっとも複雑だ。これより若い新制度全面適用の年代の人々とともに、その年金加入期間は将来、かなり伸びると予想された。そのため、たとえば四〇年加入が普通の状況になっても、この単価、乗率の引き下げがきいて、年金額の水準は改正当時の水準にとどまると考えられたのである。したがってすでに受給している人の年金はそのままに据え置き、受給の近い高年者の分の切り下げはきびしいものとしない、などの考慮がされていた。しかし改正案がわかりにくい等のため、国民の開からこうした改正案への意見はほとんどきかれなかった。

国民年金は従来、自営業者等の年金であったがヽこれを「基礎年金」としヽ二〇歳から五九歳までの全国民が加入することになった。厚生年余、共済年金など被用者年金の加入者も国民年金に加入する。この点が非常にわかりにくいが、基礎年金を入れることで、制度の形を次のように再編成したものである。厚生年金は、先に述べたように報酬比例部分と定額部分の二つからなる。この定額部分に加給年金を加えたものを二分して、大と妻それぞれの基礎年金とした。したがって、サラリーマンの年金は、基礎年金という一階に、厚生年金の報酬比例部分がのる二階建てとなり、妻の分は基礎年金だけである。共済年金も、厚生年金と同様仁再編成された。

基礎年金を導入したメリットは何か。まず基礎年金は全国民共通の年金となり、負担も給付も同じ条件で扱われる。基礎年金部分については、各制度間で一本化される。さらに基礎年金の導入により、これまで世帯単位と個人単位の年金が共存していた日本の年金制度が、「個人単位」に衣更えする。夫の受ける厚生年余と基礎年金をあわせて一人分とし、妻の基礎年金も一人分である。

基礎年金の財源は各年金制度が加入者数に応じて持ち寄るので、逼迫した国民年金の財政は息をつくことができた。こうして基礎年金は、一種の合理化の対策でもあった。基礎年金の効巣がしきりにPRされたが、国民の目には、清新な価値ある年金とは映らなかったようだ。人々は四〇年加入で月五万円という年金額二九八四年度価格)に失望したのである。国会審議でもこの点に質問が集中した。

また、社会党と公明党が、基礎年金は国民の最低生活を保障するもので、生活保護基準を上まわるものでなければならないと主張したのに対して、当時年金局長だった吉原健二氏は、その編著書『新年金法』につぎのように書いている。「昭和五九二九八四」年度現在、六五歳単身男子の場合二級地(県庁所在地等地方中核都市)で〔生活保護費は〕雑費分も含めて五万三三六九円、夫六八歳、妻六五歳の夫婦の場合はあわせて八万三七四〇円であり、老人一人当たり、おおむね五万円前後の水準である。【中略】基礎年金の水準が、生活保護の水準と比べて必ずしも低いとはいえない。