2012年8月7日火曜日

地元の根室市は猛反発

根室地方行政合同庁舎の中に入る根室支局は、職員4人。地域の登記業務のほか、北方四島の土地・建物の登記簿や台帳を保管している。第二次大戦の末期に旧ソ連(ロシア)に島を占拠された際に、各島にあった登記などが一時的に根室に運ばれたためだ。

釧路地方法務局によると、根室支局では土地登記8322筆(厚さ約5センチのファイルで182冊)、建物登記1921筆(同59冊)、昭和20年当時の島民の戸籍書類の一部などが書庫に保管されている。

現在四島には行政権が及ばないため、これらの登記は記載内容の変更ができない。しかし、昭和45年に出された法務省通知を根拠に、土地建物所有者や家族からの申し出があれば、登記簿に付記するような形で、相続関係を明確にするための手続きが行われている。

そのため、根室支局の存在が、四島に住んでいた住民や子孫にとって、故郷での権利を主張するよりどころとなってきた経緯がある。

廃止計画が打ち出されたのは昨年3月。事務処理件数が少ないことを理由に根室支局を廃止し、登記簿などは、約100キロ内陸の中標津(なかしべつ)出張所に移されることが、釧路地方法務局から地元に伝えられた。

国は行政改革の取り組みの一つとして平成19~22年度までに、全国で550ある同様施設のうち、120カ所を減らす計画を打ち出しており、根室支局もその対象になった。

これに対し地元の根室市は猛反発。「根室支局は、北方領土返還要求運動原点の地で、国家の主権と尊厳に係る領土問題の一翼を担っている法務局である」と、存続を訴えている。市の北方領土対策・企画政策課では、「年内にも廃止される可能性がある。市長が上京する機会をとらえ、国にも存続を働きかけていく」と危機感を募らせる。

登記事務にかかわりの深い日本司法書士会連合会も、総会で存続を求める決議を行った。決議では「廃止は単に行革の視点のみの判断であり、これが日本の姿勢としてとらえられればロシアに誤ったメッセージを伝えることにもなりかねず、日本の国益を大きく損なう結果となる」と訴えている。

当初、釧路地方法務局は今秋にも廃止計画を実行に移したい考えを伝えていた。しかし、国益を訴える地元の要請に、現地点では「『検討中』としか言えない」(釧路地方法務局総務課)とコメントしている。